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福岡高等裁判所那覇支部 平成10年(行コ)1号 判決 1999年5月11日

那覇市牧志二丁目一一番二号

第一号事件控訴人

高良盛介

那覇市牧志三丁目一番三号

第二号事件控訴人

合資会社並里商会

右代表者無限責任社員

高良盛介

右両名訴訟代理人弁護士

上野光典

春島律子

牧志要

那覇市旭町九番地

第一、二号事件被控訴人

那覇税務署長 赤嶺有功

右指定代理人

細川二朗

井上隆幸

倉本正博

安里光史

仲間喜美子

松尾啓一

外間克己

古謝泰宏

富村久志

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  第一号事件

(一) 原判決を取り消す。

(二) 控訴人高良盛介(以下「控訴人高良」という。)の昭和五七年分所得税について、被控訴人が平成元年一一月六日にした更正及び重加算税を賦課する旨の決定(ただし、平成六年二月一五日付けで被控訴人のした所得税額等の更正及び重加算税の変更決定部分を除く。)を取り消す。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

2  第二号事件

(一) 原判決を取り消す。

(二) 控訴人合資会社並里商会(以下「控訴人会社」という。)の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度について被控訴人のした平成元年七月六日付け「法人税等の更正決定通知書」をもって法人税額を更正し、重加算税を賦課した更正決定処分(ただし、平成二年一月二三日付けで被控訴人のした右更正決定処分の一部取消部分を除く。)を取り消す。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

本件は、亡高良盛一(以下「亡盛一」という。)が控訴人会社に対して第一、二号事件の各原判決添付別紙物件目録(第一号事件及び第二号事件について同一)記載の各土地(以下、これらを総称して「本件各土地」といい、個々の土地を順に「本件一土地」「本件二土地」等という。)を遺贈する旨の遺言をしたうえ、昭和五七年七月に死亡したことにつき、被控訴人が、亡盛一の相続人である控訴人高良に対しては、平成元年一一月六日、亡盛一の所得税につき、法人への遺贈によって発生するみなし譲渡所得が計上されていないことを理由として、更正決定(重加算税の賦課決定を含む。)をし、また、控訴人会社に対しては、平成元年七月六日、昭和五八年三月期の法人税について右遺贈による受贈益が計上されていないことを理由として、更正決定(重加算税の賦課決定を含む。)をしたところ、控訴人高良及び控訴人会社がそれぞれ右各更正決定は更正の要件を欠くとして、右各処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠上明らかに認められる事実も含む。)

1  当事者等

(一) 控訴人会社は、日用品等の販売及び飲食を業とする合資会社であり、昭和五七年七月六日当時の社員は、無限責任社員が亡盛一及び控訴人高良であり、有限責任社員が高良光子、高良盛隆、高良盛勝、高良盛雄、高良盛雅及び高良盛久であった。

(二) 亡盛一は、控訴人会社の代表者であったが、昭和五七年七月六日に死亡した。

(三) 控訴人高良は、亡盛一の長男であり、亡盛一の死後、控訴人会社の代表者に就任した。

2  亡盛一の死亡による相続の発生等

(一) 亡盛一は、昭和五六年四月一七日、公正証書遺言によって、亡盛一所有の本件各土地を控訴人会社に遺贈する旨の意思表示(以下「本件遺贈」という。)及び弁護士大城宏子を遺言執行者に指定する旨の意思表示をした(以下、右遺言を「本件遺言」といい、その遺言書(公正証書)を「本件遺言書」という。)。

(なお、遺贈対象土地のうち一部は、本件遺言後に分筆されているところ、原判決添付別紙物件目録記載にかかる本件各土地は、遺言書記載の地番に基づき、分筆後における当該地番の土地のみを表示しており、実際には、右地番の土地のほかに、分筆後のその余の新地番の土地をも遺贈したことになるが、以下では、特に必要がない限り、これを区別しないで「本件各土地」等と表記する。)

(二) 亡盛一は、昭和五七年七月六日に死亡し、相続が開始した。

(三) 亡盛一の相続人は、控訴人高良並びに高良盛隆、高良盛勝、高良盛雄、高良盛雅、高良盛久、宮里せつ子、輿儀克子及び岸本富子(以下、控訴人高良以外の相続人を総称して「盛隆外七名」という。)の合計九名であり、他に相続人はいない。

(四) 遺言執行者である弁護士大城宏子は、同年九月二七日、相続人全員に対し本件遺言書を公開した。

3  控訴人会社、控訴人高良及び盛隆外七名の行った確定申告等

(一) 所得税関係

亡盛一の相続人の一人である控訴人高良は、亡盛一に係る昭和五七年分の所得税につき、本件遺言により本件各土地が控訴人会社に遺贈されたことに基づき発生する、いわゆる「みなし譲渡所得」(所得税法五九条一項一号)の金額を計上することなく、相続人の代表として、法定申告期限(昭和五七年一一月六日)後の同月一一日、第一号事件の原判決添付別表(以下「別表1」という。)のとおり、準確定申告をした(以下「本件所得税準確定申告」という。)。

(二) 相続税関係

控訴人高良及び盛隆外七名の相続人は、昭和五八年一月五日、本件各土地が未分割の相続財産であるとして、他の相続財産と併せて相続税の申告(相続税の総額が六億一八六八万一六〇〇円、そのうち控訴人高良分が一億四七八七万一三一七円、盛隆外七名がそれぞれ六二九三万六〇七九円)を期限内に行った。

(三) 法人税関係

控訴人関係は、昭和五八年五月三一日、本件各土地が控訴人会社に遺贈された場合に発生する受贈益を法人の所得に加算することなく、第二号事件の原判決添付別表(以下「別表2」という。)のとおり、昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度(昭和五八年三月期。以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告をした(以下「本件法人税確定申告」という。)。

4  相続人間での紛争の発生

(一) 控訴人会社は、昭和五八年五月三一日、盛隆外七名に対し、本件一土地について、本件遺贈を放棄する旨の意思表示をした。そして、控訴人会社は、同年六月一日、控訴人高良及び盛隆外七名から本件一土地を代金一億九八〇〇万円で買い受けた。右土地については、那覇地方法務局昭和五八年六月一三日受付第一八〇八二号をもって、昭和五七年七月六日相続を原因とする控訴人高良及び盛隆外七名を共有者とする所有権移転登記がされ、同法務局昭和五八年六月一三日受付第一八〇八三号をもって、同月一日売買を原因とする控訴人会社に対する所有権移転登記がされた。

(二) 盛隆外七名は、昭和五八年九月二〇日、控訴人高良及び控訴人会社に対し、本件遺贈によって盛隆外七名の遺留分が侵害されているとして、遺留分減殺の意思表示をした(以下「本件遺留分減殺」という。)。

盛隆外七名のうち盛隆を除く七名は、昭和五九年三月一五日、控訴人高良及び控訴人会社を相手方とする家事調停の申立て(那覇家庭裁判所昭和五九年(家イ)第一二五号)をして、本件各土地ほかの亡盛一の財産について、右六名が本件遺留分減殺請求によって、共有持分を有することの確認を求めた。そして、盛隆外七名のうち盛隆を除く七名は、昭和五九年三月二九日、本件各土地ほかの亡盛一の財産について、控訴人高良及び盛隆を相手方とする遺産分割調停の申立て(那覇家庭裁判所昭和五九年(家イ)第一四三号)をした。

(三) 本件八ないし一三土地について、那覇地方法務局昭和五九年六月二六日受付第一九六二二号をもって、本件遺贈を原因とする控訴人会社への所有権移転登記がされた。

盛隆外七名は、昭和六〇年七月一三日、控訴人高良及び控訴人会社を被告とする土地共有持分確認等請求の訴えを提起し(那覇地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四一四号)、本件遺留分減殺請求により、盛隆外七名が本件二ないし二一土地の共有持分を有することの確認を求めた。

本件二ないし七土地について、那覇地方法務局昭和六三年一月一三日受付第一九六五号をもって、本件遺贈を原因とする控訴人会社への所有権移転登記がされた。

盛隆外七名は、昭和六三年六月二八日、前記共有持分確認等訴訟について訴えを変更し、主位的には、本件遺言の無効又は控訴人会社による本件遺贈の放棄を原因として、本件二ないし一三土地につき控訴人会社に対してなされた所有権移転登記の抹消登記手続等を請求し、予備的には、本件遺留分減殺請求に基づいて、盛隆外七名が本件二ないし二一土地の共有持分を有することの確認を求めた。

(四) 本件一四ないし二一土地について、那覇地方法務局昭和六三年一一月二二日受付第三二九三一号をもって、昭和五七年七月六日相続を原因とする控訴人高良及び盛隆外七名への所有権移転登記がされた。

(五) 右共有持分確認等訴訟について、平成三年二月一九日、控訴人高良及び盛隆外七名並びに控訴人会社との間で、裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。本件和解の和解条項には、本件遺言が有効であることの確認(第一項)、本件一土地について、控訴人会社が遺贈を放棄し、控訴人高良及び盛隆外七名が相続により共有持分権を取得し、これを控訴人会社に売り渡したことの確認(第三項)、本件二ないし二一土地について、控訴人会社が本件遺贈を原因として所有権を取得したことの確認(第五項)、本件一四ないし二一土地について、本件遺留分減殺請求を原因として、盛隆外七名が各自八分の一の共有持分を取得したことの確認(第六項1)、本件一四ないし二一土地についての控訴人高良に対する持分九分の一の所有権移転登記を錯誤を原因として抹消し、盛隆外七名の共有持分を各八分の一と更正する登記手続に控訴人高良が協力すること(第六項2)、控訴人会社が、盛隆外七名に対し、遺留分減殺に代わる価額弁償として、合計一五億円の支払義務があることを認め、これを分割して支払うこと(第七項)等が記載されている。

5  第二号事件についての課税処分(法人税関係)

(一) 被控訴人は、平成元年七月六日、控訴人会社に対し、本件事業年度(昭和五八年三月期)の法人税につき、本件各土地について、本件遺贈に基づく受贈益及び地代収入が発生しているので、その計上もれが存在し、かつ、国税通則法六八条一項所定の事由が認められるとして、別表2のとおり更正及び重加算税の賦課決定(以下「本件法人税更正決定」という。)をした。

なお、被控訴人は、同日、昭和五九年三月期ないし昭和六三年三月期の法人税についても地代収入の計上もれが存在することになるとして、それぞれ更正した。

(二) 控訴人会社は、平成元年七月一四日、本件法人税更正決定に対し異議を申し立てたところ、被控訴人は、平成二年一月二三日、本件一土地については、遺贈の放棄がされたので、受贈益及び地代収入の発生が存しないほか、右土地についての固定資産税額を経費と認めた点についても右更正決定には誤りがあると認め、別表2のとおり本件法人税更正決定の一部を取り消し、その余については異議を棄却する旨の決定(以下「本件法人税異議決定」という。)をした。

(三) 控訴人会社は、平成二年二月一七日、右異議決定に対する審査請求を申し立てたところ、国税不服審判所長は、平成五年三月三一日、右審査請求には一部理由があると認め、計算誤りの認められる二二九万八七〇〇円については、取り消すのが相当であるとして、別表2のとおり本税の額二二九万八七〇〇円を取り消し、その余については審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件法人税裁決」という。)をした。

(四) 控訴人会社は、平成五年六月二三日、那覇地方裁判所に対し、被控訴人に対する本件訴えを提起し、本件法人税更正決定(本件法人税異議決定で一部取り消された部分を除く。)の取消しを求めた(第二号事件)。

6  第一号事件についての課税処分(所得税関係)

(一) 被控訴人は、平成元年一一月八日、亡盛一の所得税について、亡盛一には、本件遺贈により、本件二ないし二一土地の価額相当額の「みなし譲渡所得」(以下「本件みなし譲渡所得」という。)が発生するとし、かつ、本件みなし譲渡所得の発生について、当初の本件所得税準確定申告書に記載がなかったのは、控訴人高良の判断に基づくものであって、国税通則法六八条一項所定の事由が存するとして、亡盛一の相続人である控訴人高良に対して、別表1のとおり更正及び重加算税賦課決定(以下「本件所得税更正決定」という。)をした。

(二) 控訴人高良は、平成元年一二月一日、本件所得税更正決定に対し異議を申し立てたところ、被控訴人は、平成二年三月七日、別表1のとおり右異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件所得税異議決定」という。)をした。

(三) 控訴人高良は、平成二年四月九日、右異議決定に対し審査請求を申し立てたところ、国税不服審判所長は、平成五年三月三一日、右の審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件所得税裁決」という。)をした。

(四) 控訴人高良は、平成五年六月二三日、那覇地方裁判所に対し、被控訴人に対する本件訴えを提起し、本件所得税更正決定の取消しを求めた(第一号事件)。

(五) 被控訴人は、本件和解が成立した平成三年二月一九日から三年以内である平成六年二月一五日、亡盛一の所得税について、本件一四ないし二一土地は、右和解により、盛隆外七名に現物返還することが確定したことに伴い、右土地部分の本件みなし譲渡所得はなかったものとなるとして、国税通則法七一条二号に基づき、職権による減額更正(以下「本件所得税職権減額更正」という。)をした。

7  関連する課税処分

(一) 相続税関係

控訴人高良は、平成三年六月二七日、被控訴人に対し、亡盛一死亡に係る相続税について、本件和解によって、控訴人高良の相続分が減少したから、その分は減額すべきであるとして、更正を請求した。

被控訴人は、平成五年一二月一四日、控訴人高良に対し、右相続税について更正をすべき理由がない旨通知した。控訴人高良は、平成六年一月一二日、右通知に対し異議を申し立てたところ、被控訴人は、同年二月一〇日、右の異議申立てを棄却する旨決定した。

控訴人高良は、右異議決定を不服として、平成六年三月七日に国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同審判所長において審理中で、裁決がされるには至っていない。

被控訴人は、本件和解が成立した平成三年二月一九日から三年以内である平成六年二月一五日、右相続税について、亡盛一の所得税のみなし譲渡に係る本税額の債務控除加算もれがあったと認め、債務控除額(当初申告額一二五万〇三九〇円)が四三二四万五三九〇円、課税価額(当初申告額三億二九五四万一〇〇〇円)が二億八七五四万六〇〇〇円、相続税の総額(当初申告額六億一八六八万一六〇〇円)が五億九三四八万五一〇〇円、納付すべき税額(当初申告額一億四七八七万一三〇〇円)が一億二三七六万一八〇〇円、減少する相続税の本税の額が二四一〇万九五〇〇円であると判断し、国税通則法七一条二号に基づき、職権による減額更正をした。なお、右の亡盛一の所得税のみなし譲渡に係る本税額の債務控除加算もれ分は、本件所得税職権減額更正により減額された後の金額である。右は、被相続人である亡盛一の債務であり、かつ、相続税法一三条二項所定の「その財産に係る公租公課」に該当するものである。

(二) 本件法人税更正決定に係る法人税についての更正請求

控訴人会社は、平成三年六月二七日、本件和解に基づき、盛隆外七名に現物返還した本件一四ないし二一土地に係る受贈益部分及び価額弁償金一五億円を支払うことが確定した本件二ないし一三に係る受贈益部分等については、昭和五八年三月期事業年度の損金に算入すべきであるとする旨の更正の請求書を被控訴人宛て提出した。

被控訴人は、平成三年九月三〇日、控訴人会社の更正の請求に対して、右更正の請求は、その請求期限である二か月を経過しているから認められないとして、更正の請求に理由がない旨の通知をした。なお、右の通知に対して異議申立てはされなかった。

二  控訴人らの主張

1  法人税に関する受贈益の不発生(控訴人会社の主張)

控訴人会社には、本件事業年度において、本件二ないし二一土地(とりわけ本件一四ないし二一土地)の遺贈を受けたことによる受贈益は発生していないというべきであるので、これらの受贈益が発生したとして被控訴人がした本件法人税更正決定は違法である。

(一) 控訴人会社の本件遺贈に対する態度

控訴人会社は、相続開始後、本件法人税確定申告をした昭和五八年五月三一日の前日までは本件各土地について何ら遺贈の放棄も承認もしていない。右申告日に本件一土地について遺贈の放棄をし、本件二ないし二一土地については放棄も承認もしていない状況であった。ただ、盛隆外七名が本件遺贈を争う姿勢を示し、確定申告日までに控訴人高良及び盛隆外七名の話し合いが合意に達しなかったので、控訴人会社は、本件遺贈を受けないで一応遺贈を放棄し、本件法人税確定申告をした。

その後、本件遺言をめぐって相続人間での紛争が長期化する中で、各相続人らの相続税の支払の財源を確保する必要があり、被控訴人からもその請求を受けていたので、やむなく昭和五九年六月二六日に本件八ないし一三土地について、昭和六三年一月一三日に本件二ないし七土地について、それぞれ遺贈を原因として所有権移転登記を行った。

それ以外の本件一四ないし二一土地については、遺贈を原因として控訴人会社が所有権を取得した事実はない。すなわち、土地所有権の推移をみると、本件一四ないし二一土地は、亡盛一の所有から相続により相続人全員の共有となり、最後に盛隆外七名の共有財産になっている。一度も控訴人会社の名義に変更されたことはないし、控訴人会社としてもその意思は全くなかった。

したがって、少なくとも本件一四ないし二一土地については、控訴人会社は遺贈を受けているのであるから、被控訴人は右各土地について受贈益の発生を否定すべきである。

仮に、本件法人税異議決定で受贈益の発生を否定しなかったことが適法であるとしても、平成三年二月一九日、本件遺留分減殺にかかる訴訟において当事者間に本件和解が成立し、この時点で、本件一四ないし二一土地について確定的に所有権が控訴人会社に帰属しなくなった(右各土地について控訴人会社が遺贈を放棄した。)のであるから、被控訴人は、本件法人税更正決定の取消しをすべきであった。

(二) 受贈益発生の時期

遺言は遺言者死亡の時から効力を生じるものであるが、遺贈においては受遺者に承認及び放棄の選択権がいつまでも与えられており、法律上はその期限の制限はない(民法九八六条)。ただ、受遺者が承認も放棄もしない場合には利害関係人らの催告権を認めて、相当期間内に受遺者が承認、放棄の意思表示をしなければ遺贈を承認したものとみなすとして、早期に相続財産の法的安定性を確保する手段を認めており(民法九八七条)、民法九八六条ないし九八八条の規定から判断すると、黙示の遺贈の承認は予定されていない。そして、遺贈を放棄すればその効力は相続開始時に遡る。

したがって、遺言に基づいて遺贈がなされたからといって当然に相続開始時に当該物件の所有権が確定的に受遺者に帰属すると考えることはできない。特に、本件遺言のように過重な税の負担を伴う遺贈の場合には、被控訴人の考え方に立てば受遺者は遺贈者の単独行為により犠牲を負わされることになるので極めて不当である。また、通常の社会では、本件のように遺贈の有効性について本質的な争いがなされているときに受贈の意思を表明することは極めて困難なことである。

また、受贈益とは、会計上、益金すなわち収益であり、収益とは物の引渡し、すなわち、当事者において事実上その支配内に物があることを意味するが、本件の場合には、遺贈を受けたとしても相続人から遺留分減殺請求がされることが確実であり、また、遺言書の有効性等も争われていた関係から、控訴人会社には、本件各土地につき、法律上も事実上も支配権を持っていなかったのであり、したがって、会計上の公正妥当な処理基準から判断すると、財産の帰属が確定していない場合であるから、受贈益を本件事業年度に計上すべきではないと考えるのが相当である。

そして、本件のような場合には、価額弁償等を履行して確定的な支配が現実のものとなったといえる平成三年三月期に、その受贈益を計上するのが最も公正かつ妥当であるというべきである。

(三) 本件和解の解釈

本件一四ないし二一土地は、本件和解により盛隆外七名の相続人らの共有財産になっている。これは遺留分減殺に基づいて共有財産となったものではなく、右各土地について盛隆外七名の相続人によって相続登記がされ、それを琉球バスに売却する話が出された時、あるいは遅くとも本件和解成立時に、控訴人会社が遺贈を放棄したことの反射的効果として所有権が移転したものである。本件和解条項において、控訴人会社が右各土地の所有権を取得し、遺留分減殺請求を原因として右各土地についての盛隆外七名の所有権を認めるとしたのは和解上のテクニックのためである。このことは、控訴人会社への遺贈で相続分を侵害されたのは控訴人高良も同じであるが、控訴人高良は遺留分減殺請求をせず、自分の持分について相続を放棄していることから明らかである。また、控訴人会社は、税務上どのような和解条項を作成したらいいのかということは全く考えていなかった。結局、本件和解は事実上の遺産分割協議であって、控訴人高良と控訴人会社と盛隆外七名の話し合いによる遺産分割を、係属していた訴訟手続にのせたまでのことである。

控訴人会社は、本件法人税確定申告当時、本件和解の和解条項で和解することなど考えてもおらず、また、和解は紛争を終結させることとその結果が重要なのであり、必ずしも真実と合致した和解条項が作成されるわけではない。したがって、本件和解の和解条項に重きをおいた被控訴人の見方は不当である。

(四) 遺留分減殺請求による受贈益への影響

仮に控訴人会社に本件二ないし二一土地に対する受贈益が認められるとしても、その後、控訴人会社は、盛隆外七名に対し、その遺留分減殺請求に基づき、本件一四ないし二一土地を現物返還し、一五億円を価額弁償しているのであって、少なくとも現物返還の場合には、遺贈が遡及的に失効するのであるから、その分、受贈益も減少することになると解すべきである。

2  「偽りその他不正の行為」の不存在

控訴人会社及び控訴人高良は、偽りその他不正の行為(国税通則法七〇条五項)をしていないから、本件所得税更正決定及び本件法人税更正決定は、いずれも更正決定をなしうる期間を経過した後にされたものであって、違法である。

(一) 控訴人会社及び控訴人高良がそれぞれ本件法人税確定申告及び本件所得税準確定申告を行った理由

本件法人税更正決定及び本件所得税更正決定は、それぞれ本件法人税確定申告及び本件所得税準確定申告に対してなされるものであるから、申告前の行為は相当範囲「偽りその他不正の行為」を判断するにあたり斟酌されることは当然であろうが、申告後の行為、言動については事情及び背景が申告時と相当変化した場合等には斟酌するのは不合理である。基本的には申告時までの行為、言動等を十分斟酌し、その後の言動等は申告時の事実を推認する間接的な事情と考えるのが相当である。

すなわち、控訴人会社及び控訴人高良は、昭和五七年九月二七日、本件遺言の存在を盛隆外七名と一緒に遺言執行者から聞いたが、盛隆外七名がその効力を争う意向を示し、また、そのままでは盛隆外七名の相続権や遺留分が侵害されることになるため、控訴人会社が本件遺贈を一応受けないで、控訴人高良及び盛隆外七名の間で話し合いをして妥当な結論を出すことを考えていた。

ただ、それぞれの確定申告日までに控訴人高良及び盛隆外七名の話し合いが合意に達しなかったので、控訴人会社が本件遺贈を受けないで一応遺贈を放棄し、控訴人高良は、昭和五七年一一月一一日、本件各土地が控訴人会社に遺贈されたことによるみなし譲渡所得を計上しないで、本件所得税準確定申告をし、また、控訴人会社は、昭和五八年五月三一日、右遺贈による受贈益を計上せずに本件法人税確定申告をした。なお、控訴人高良及び盛隆外七名は、昭和五八年一月五日、本件各土地を未分割の相続財産として相続税の申告をしている。

このように遺言が有効か無効かは確定しない状況であったので、控訴人高良及び控訴人会社は、それぞれ本件各土地が控訴人高良及び盛隆外七名の相続財産で未分割であることを前提とする申告をするしか方法がなかったのであり、したがって、いずれも本件について「偽りその他不正の行為」があったものということはできない。

(二) 控訴人会社が遺贈を原因として移転登記を受けた理由

控訴人会社が本件遺言で本件各土地の一部の所有名義を控訴人会社に変更した理由は、各相続人の相続税を支払うためであり、やむを得ず所有名義を変更せざるを得なかったためである。この時期は確定申告日よりも後の昭和五九年六月二六日と、昭和六三年一月一三日であるから、昭和五八年五月三一日時点では当然受贈益は生じていなかったのであって、控訴人会社がことさら過少申告の作為的な行為を行ったということはできない。控訴人会社は、当初から税理士に相談しながら税務申告を行っていたのであり、所有名義を遺贈によって変更することにより銀行から相続税の支払財源を確保したときも、被控訴人の担当者に事情を説明して納税が遅れないように誠意を持って対応していたのである。控訴人会社が故意に本件遺言書を隠していたのであれば、反対に遺贈に基づく本件各土地の名義変更は避けるのが普通である。なぜなら、所有名義の変更をすると、それが遺贈を原因としてなされたことが登記簿謄本に記載され、被控訴人の担当者にすぐわかるからである。

(三) 控訴人会社及び控訴人高良が本件遺言書を隠匿しなかったこと

控訴人会社及び控訴人高良は、他の相続人らとの間で裁判所において遺産に関する調停や訴訟を継続し、そこで本件遺言の有効性や本件遺留分減殺請求の問題を争っていたので、被控訴人担当者において本件遺言書自体の存在を早くから知っていたものと思っており、本件遺言書をことさら被控訴人に隠匿するなど考えてもいなかった。

控訴人高良が現実に被控訴人担当者と本件遺言について直接話したのは、昭和六二年一二月一日であり、これは二回目の遺贈による所有名義変更の前である。控訴人高良は、その際、被控訴人の資産税務部門上席国税調査官森東道夫及び北那覇税務署資産税務部門上席国税調査官前川敏充に対し、本件遺言書の存在を説明した。このように控訴人会社は故意に本件遺言書を隠して不正な申告をしたのではなく、遺贈による名義変更をした後にその部分について適正な修正申告をすることを被控訴人担当者に伝えていたのである。

(四) 受贈益(控訴人会社)ないしみなし譲渡所得(控訴人高良)の申告の各困難性

盛隆外七名が遺留分減殺請求権を行使したのは、昭和五八年九月二〇日であるから、本件二ないし二一土地についてどの部分かは正確には不明であるが、控訴人会社が遺贈を受けた本件各土地の一部が遺留分減殺請求権者に帰属しているのである。控訴人会社ないし控訴人高良としては、どの程度の受贈益ないしみなし譲渡所得を申告しなければならないかは裁判の推移を見た上でなければ確定できないので、本件和解以前に受贈益ないしみなし譲渡所得をそれぞれ申告することは不可能であった。

(五) 「偽りその他不正の行為」の不存在

国税通則法七〇条五項が予定する「偽りその他不正の行為」とは、「不正」という反社会的な行為者に対するぺナルティを課す要件であり、どのような解釈をしてもなお「不正」といえるような行為でなければならない。

控訴人会社、控訴人高良及び盛隆外七名は、当初から本件各土地について遺贈を放棄することを前提に話し合いをしており、昭和五八年九月ころから遺留分減殺請求等の手続を開始し、和解が成立するまで、長期にわたり争っていたものであり、控訴人会社が独自の判断で本件各土地の所有権の確定的な帰属を前提とする申告をすることができなかったことは仕方のないことであった。

特に本件一四ないし二一土地については、控訴人会社は一度もその所有権を取得しておらず、名義すらも変更していない。このような土地について受贈益を申告しなかったとしても、「偽りその他不正の行為」に該当するとはいえないと考えるのが常識に合致する。

(六) したがって、控訴人会社及び控訴人高良の言動や行為について「偽りその他不正の行為」に該当するようなものはない。

3  重加算税

重加算税の賦課要件である「仮装、隠ぺい行為」は、文言の意味や立法趣旨から判断して、「偽りその他不正の行為」のなかで程度の高い悪性(積極的な行為)のある行為であり、「偽りその他不正の行為」の範疇に含まれるものと解される。既に述べたとおり控訴人会社及び控訴人高良には「偽りその他不正の行為」が認められないので、「仮装、隠ぺい行為」も当然に認められない。

4  被控訴人の矛盾した各課税処分の不当性(控訴人会社の主張)

亡盛一の相続財産について、税の発生する可能性が存するものとして、(一)控訴人会社の受贈益による法人税、(二)亡盛一のみなし譲渡所得として課される所得税(共同相続人らが相続)、(三)共同相続人らの相続税の三つがある。

控訴人会社は本件法人税確定申告時に受贈益に係る法人税を申告せず、共同相続人らが相続税の申告をした。法人税が発生しない以上、みなし譲渡所得は発生しないので、みなし譲渡所得は申告していない。

被控訴人は、平成元年七月六日、控訴人会社の法人税に関して本件法人税更正決定を行った。この時、被控訴人としては、本件各土地のすべてについて本件法人税更正決定をして法人税の賦課を行った以上、共同相続人らの相続税については職権で相続税の賦課処分を取り消す必要があった。なぜなら、同一の不動産について、相続税と法人税とが同時に徴収されるという不当な結果になるからである。ところが、被控訴人は、相続税の方はそのままにして法人税のみ本件法人税更正決定をしたため、二重課税という事態を発生させた。その上、みなし譲渡所得に対する所得税についても本件所得税更正決定をしたので、控訴人会社及び共同相続人らは、三重の課税という極めて不合理な税負担を強いられる結果となった。

その後、被控訴人は、平成二年一月二三日、本件法人税異議決定により、本件法人税更正決定の一部を取り消し、本件一土地については法人税の賦課を取り消したが、その余の法人税の取消しは現在までなされていない。一方、本件みなし譲渡所得に対する所得税については、本件一土地の法人税の取消しに伴って、その部分のみなし譲渡所得に対する課税を除外して平成元年一一月六日に本件所得税更正決定をしているのみならず、平成六年二月一六日に本件一四ないし二一土地(共同相続人らが取得した土地)について、職権による更正でみなし譲渡所得に対する課税を取り消している。

このように、被控訴人は、法人税の賦課とみなし譲渡所得税の賦課について矛盾した態度をとっている。さらに、法人税と相続税に関しては、本件二ないし二一土地について二重の課税が行われており、被控訴人の矛盾した課税の姿が一段と明白になっている。

なお、被控訴人は、事業所得に係る所得税や法人税については、収益と費用が期間的に対応することが必要とされ、当期において生じた損失は、その発生事由を問わず、当期に生じた益金に対応させて当期において経理処理をすべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであったとしても、その事業年度に翻って損金としての処理をしないというのが一般的な会計の処理であると主張する。しかし、遺贈と遺留分減殺請求とは収益と費用という関係にないし、売買契約等の営利行為と比較することは不合理であって、非日常的でかつ商取引に関係がないときには期間損益課税の原則は適用されないというべきである。また、本件の遺贈に基づく控訴人会社の受贈益は被相続人の一方的な行為によって発生するものであって、一般の会計処理にそぐわないものである。

5  よって、被控訴人に対し、控訴人会社は、本件法人税更正決定(本件法人税異議決定によって一部取り消された部分を除く。)の取消しを求め、控訴人高良は、本件所得税更正決定(本件所得税職権減額更正によって一部取り消された部分を除く。)の取消しを求める。

三  被控訴人の主張

1  控訴人会社の受贈益の発生(控訴人会社の主張に対し)

(一) 法人税の収益計上時期

法人税法は、法人税の所得金額計算に当たり、収益及び損金を計上すべき時期についての一般的な規定を置いていないが、企業会計上の発生主義の原則等にかんがみ、法人税法上も、所得税法と同じく、原則として権利確定主義ないし権利発生主義がとられているものと解されている(同法二二条四項参照)。そして法人税法二二条一項は、収益の計上時期について、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」と規定し、当該益金の額に算入すべき金額については、同条二項において、「別段の定めがある場合を除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と規定している。

(二) 遺言の効力発生時期

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じるのであり(民法九八五条一項)、遺言者が死亡した場合には、その受遺者が当該遺贈者の死亡及び遺贈の事実を知ると否とに関わらず、受遺者がその遺贈を放棄する場合を除き、当然に死亡の時からその効力が生じる。そして、特定物又は特定の権利が遺贈されるときは、大審院以来の確定した判例や多数説によれば、原則として、当然に物権的に権利が受遺者に移転すると解されている。

したがって、本件各土地は被相続人の死亡時(昭和五七年七月六日)に控訴人会社が遺贈により取得したものであり、その効果は被相続人の死亡の日の属する本件事業年度に発生したと解するのが相当である。ところで、控訴人会社が遺贈の放棄をしたと認められるのは、本件一土地のみであるから、控訴人会社は、亡盛一の死亡時(昭和五七年七月六日)に、同土地以外の本件各土地を遺贈により取得し、死亡の日の属する本件事業年度に受贈益が発生したものである。

なお、このように解したとしても、その後、遺留分減殺請求等がなされ、これに伴う具体的な受贈益の変動があった場合には、その変動があった時点の事業年度において損金として処理することになるのであるから(法人税法二二条三項及び四項)、遺言者の死亡の日の属する事業年度において受贈益を計上することが、受贈者の利益を著しく害することにはならない。事業所得に係る所得税や法人税については、収益と費用が期間的に対応することが必要とされ、当期において生じた損失は、その発生事由を問わず、当期に生じた益金に対応させて当期において経理処理をすべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであったとしても、その事業年度に翻って損金としての処理をしないというのが一般的な会計の処理である。

(三) 本件和解の解釈

遺留分権利者は、遺留分を保全するに必要な限度で遺贈の減殺を請求することができるとされ(民法一〇三一条)、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で、当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属する(最高裁昭和五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)。また、遺留分減殺請求権の行使により遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象財産としての性質を有しない(最高裁平成八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)。

そうすると、本件和解は、遺産分割の合意とは、その本質を異にするものである。そして、本件和解は、その条項の文言から明らかなとおり、控訴人会社による本件遺贈の承認又は放棄について合意されたものでもなく、本件遺贈が有効なものであることを前提にして、本件遺留分減殺請求による現物返還の範囲と一部現物返還の義務を免れるための価額の弁償について、合意されたものである。すなわち、本件一四ないし二一土地が盛隆外七名の共有に帰属すると争いなく確定したのは、本件遺贈が有効に成立していたことと、本件遺留分減殺がされたことを前提にして、本件和解により現物返還の合意がされたことに基づくものであるし、本件二ないし一三土地が遺留分権利者である盛隆外七名に返還されないことが争いなく確定したのも、本件和解により、現物返還の範囲と価額の弁償について合意されたからにほかならない。

なお、本件一土地が控訴人会社の所有に帰属したのは、控訴人会社が本件遺贈を放棄したうえ、控訴人高良及び盛隆外七名との間で売買契約を締結した結果である。

(四) したがって、被控訴人は、本件遺言によって、控訴人会社に本件事業年度における本件二ないし二一土地の「無償による資産の譲受」が発生したことから、本件法人税更正処分を行ったものである。

2  「偽りその他不正の行為」の存在

(一) 「偽りその他不正の行為」の異議

国税通則法七〇条五項の「偽りその他不正の行為により」とは、法定申告期限前において、(1)納税者が虚偽の申告書を提出し、その正当に納付すべき国税の納付義務を過少ならしめてその不足税額を免れたとき、及び(2)納税者が名義の仮装、二重帳簿の作成等の積極的な行為をなし、法定申告期限までに申告納税せず正当に納付すべき税額を免れたとき、並びに法定申告期限が経過したときにおいては単純無申告の状態にあった納税者がその法定申告期限後において、(3)虚偽の申告をし、その正当に納付すべき税金の納付義務を過少ならしめてその不足税額を免れたとき、(4)税務官庁の決定に対する異議申立て又は審査請求をするに当たり、虚偽の事実を主張してその主張するところにより正当な国税の納付義務を過少ならしめたとき、(5)税務職員の調査上の質問又は検査に際し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作為した虚偽の事実を呈示したりした場合において、その陳述し主張するところにより正当な国税の納付を過少ならしめたときなどが、これにあたると解されている。

「偽りその他不正の行為」について、最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決(訟務月報二三巻三号五六三頁)は、「偽りその他不正の行為とは、税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものであって、単なる不申告行為はこれに含まれないものである。そして偽計その他の工作を行うとは、名義の仮装、二重帳簿を作成する等して、法定の申告期限内に申告せず、税務職員の調査上の質問に対し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作出した虚偽の事実を呈示したりして、正当に納付すべき税額を過少にして、その差額を免れたことは勿論納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税対象となることを回避するため、所得の金額をことさら過少に申告した内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免れる行為、いわゆる過少申告行為もそれ自体単なる不申告の不作為にとどまるものではなく、偽りの工作的不正行為といえるから、右にいう「偽りその他不正の行為」に該当するものと解すべきである。」と判示した原審の判断を正当として是認することができるとしている。

(二) 本件における「偽りその他不正の行為」

(1) 本件各土地は全部控訴人会社に遺贈するという内容の本件遺言書が存在する。(2)亡盛一の長男である控訴人高良は、相続税の申告当時、本件各土地が控訴人会社に遺贈されていることを了知していた。(3)控訴人高良及び盛隆外七名は、昭和五七年一〇月ころ、亡盛一に係る相続税の申告書の作成を行った田本税理士から、本件遺言書どおり遺言を実行すれば、控訴人会社への遺贈に基づく法人の受贈益の計上及び亡盛一のみなし譲渡所得の申告を行うべきである旨、また、控訴人会社が遺贈を放棄して全相続人が未分割で申告すれば、本件遺言書どおり申告するのに比して三億二〇〇〇万円程度の節税になる旨の説明を受けており、いかなる申告形態を採用するかによって、本件各土地に対する課税額に違いが出ることを十分認識していた。(4)本件一土地以外の本件各土地については、遺贈の放棄がなされていない。付言すれば、控訴人会社及び控訴人高良は、本件法人税確定申告及び本件所得税準確定申告の際に、本件遺贈の放棄をする意思を有していなかったのに、その後に所有権移転登記をするなど、自ら本件遺贈を承認する行動に出ていたのであって、本件各土地が未分割の相続財産であるかのように仮装していたものといわざるを得ない。これに反し、本件遺贈を放棄することを前提にしていたなどという控訴人らの主張は採用できない。

したがって、遺贈の放棄が申告時になされていない以上、被相続人の準確定申告においては、本件各土地に係るみなし譲渡所得の申告が必要であり、控訴人会社の確定申告においても受贈益の申告が必要なことは明らかであった。それにもかかわらず、控訴人高良において、本件各土地が未分割であるとする相続税の申告を行うとともに、被相続人の準確定申告においてみなし譲渡所得を申告せず、控訴人会社においても遺贈による受贈益を申告しなかったことは、「所得金額をことさら過少に申告した内容虚偽の申告行為」であって、単なる所得計算の違算や忘失というものではなく、控訴人会社及び控訴人高良がそれぞれ正当な税額の納付を回避する意図を基になした過少申告行為と認めるのが相当であり、右各過少申告により、控訴人会社において法人税を過少にして、その不足額を納付せず、控訴人高良においてみなし譲渡の所得税を過少にして、その不足額を納付しなかったことは、いずれも国税通則法七〇条五項の「偽りその他不正の行為により税額を免れた」ことに該当するというべきである。また、控訴人会社及び控訴人高良は、法人税に係る調査の際に、本件遺言書の存在を意図的に明らかにせずに隠ぺいし、これにより正当に納付すべき本件法人税を過少に確定させたといえる。

(三) したがって、本件法人税更正決定及び本件所得税更正決定の各除斥期間は、同項により七年ということができるので、右期間内になした右各更正決定は適法である。

3  重加算税

(一) 「隠ぺい、仮装行為」の意義

国税通則法六八条一項一号の「事実の隠ぺい」は、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入若しくは架空経費の計上、たな卸資産の一部除外等によるものをその典型的なものとする。また、「事実の仮装」は、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等をその典型的なものとする。いずれも、行為が、客観的にみて隠ぺい又は仮装と判断されるものであれば足り、納税者の故意の立証まで要求しているものではない。

(二) 本件における「隠ぺい、仮装行為」

(1) 最高裁判所昭和六二年五月八日第二小法廷判決(裁判集民事一五一号三五頁)は、「国税通則法六八条に規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であり、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法六八条一項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。」と判示している。

仮装、隠ぺいの要件は、納税義務違反が課税要件事実の隠ぺい、仮装によって行われた場合には、結果として過少申告等の事実があれば足りると解されるところ、本件においては、控訴人高良が課税要件事実である遺言公正証書を隠ぺいし、本件各土地があたかも未分割財産であるかのごとく仮装し、それが、控訴人会社においては受贈益として法人税の対象となることを回避したものであり、控訴人高良においてはみなし譲渡所得として所得税の対象となることを回避したものであることは明らかであり、いずれも結果として過少申告となっているものである。

したがって、本件における控訴人高良ないし控訴人会社の行為は、いずれも国税通則法六八条一項一号に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、仮装した行為に該当し、重加算税の対象となるものであって、控訴人会社及び控訴人高良に対してした各重加算税の賦課決定処分は適法である。

(2) 最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決(訟務月報二三巻三号五六三頁)の原審である福岡高等裁判所昭和五一年六月三〇日判決(行裁集二七巻六号九七五頁)は、「真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額をことさらに過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にして、その不足税額を免れる偽りの不正行為、いわゆる過少申告をなしたもの」については、「国税通則法六八条一項の、国税である所得税の税額計算の基礎となる所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したことに該当」し、「本件重加算税の賦課決定をなしたことは適法で」あると判示している。

本件についてこれをみると、控訴人高良は、遺贈の放棄が申告時になされていない以上、控訴人会社の確定申告においては、受贈益の申告が必要であり、亡盛一の準確定申告においては、みなし譲渡所得の申告が必要であるにもかかわらず、本件各土地が未分割の相続財産であるとする相続税の申告を行うとともに、本件法人税確定申告において、受贈益の申告をせず、本件所得税準確定申告においてみなし譲渡所得を申告せず、それぞれ所得金額をことさら過少に申告した内容虚偽の申告をしたのであって、本件における控訴人高良ないし控訴人会社の行為は、国税通則法六八条一項一号に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし仮装した行為に該当し、重加算税の対象となるものである。

(3) 最高裁判所平成六年一一月二二日第三小法廷判決(民集四八巻七号一三七九頁)は、「真実の所得金額よりも少ない所得金額を記載した確定申告書であることを認識しながらこれを提出したというにとどまらず、(中略)真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的な工作を行うことを予定しつつ、正確な所得金額を把握し得る会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかである。」と判示して、いわゆるつまみ申告に対する重加算税の賦課を認めている。

そして、最高裁判所平成七年四月二八日第二小法廷判決(民集四九巻四号一一九三頁)は、「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」には、重加算税の賦課要件が満たされたものと解すべきであると判示する。

これを本件についてみると、控訴人会社は、本件遺贈を放棄しない限り、本件法人税確定申告をするに当たり、受贈益を申告すべきであることを十分認識し、控訴人高良は、本件遺贈が放棄されない限り、本件所得税準確定申告をするにあたり、みなし譲渡所得を申告すべきであることを十分認識していたのに、控訴人高良において、田村税理士に対し、本件遺贈を受けない旨を述べて、同税理士をして受贈益ないしみなし譲渡所得を除外した過少な申告書をそれぞれ作成させ、これらを被控訴人に提出したのである。

これに加えて、控訴人会社が本件法人税確定申告をし、控訴人高良が本件所得税準確定申告をした後も、それぞれ本件遺贈を承認する行動に出ており、本件各土地が未分割の相続財産であるかのように仮装していたこと、控訴人会社への調査の際に、調査担当職員に対し、本件遺言書の存在等本件遺贈に関する事実を意図的に明らかにせず、これを隠ぺいしていたことをも併せ考えると、控訴人会社及び控訴人高良が、当初から所得を過少に申告する意図を有し、その意図に基づきそれぞれ本件の過少申告を行ったことは明白である。

そうすると、控訴人会社及び控訴人高良は、当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基づいて控訴人会社及び控訴人高良がなした各過少申告行為は、いずれも国税通則法六八条一項所定の重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。

(三) したがって、右各重加算税の賦課決定処分は適法である。

4  各課税処分相互の関係(控訴人会社の主張に対し)

被控訴人は、本件一四ないし二一土地に関し、控訴人会社主張のとおり、みなし譲渡所得については昭和五七年分の所得税に対する減額処分をし、本件法人税確定申告に係る控訴人会社の法人税については受贈益の減額処分をしていない。

被控訴人の右行為は一見矛盾しているかのようにみえるが、右差異は、所得税と法人税における課税救済手段の相違によって生じるものであって、矛盾が生じているわけではない。

まず、みなし譲渡所得については、控訴人高良から国税通則法二三条二項に基づく更正の請求書は提出されなかったものの、被控訴人は、相続税及び法人税に関する更正の請求書の記載に基づいて、控訴人会社と盛隆外七名との間に、本件和解が成立した事実を知ったことから、国税通則法七一条二号(国税の更正、決定等の期間制限の特例)の規定に基づき、和解が成立した平成三年二月一九日から三年以内の平成六年二月一六日に職権で減額の更正処分をした。

一方、法人税については、更正の請求期限から二か月を経過しているとして、更正の請求に理由がない旨の通知処分を行ったのであるが、仮に、右更正の請求が二か月以内に提出されていたとしても、もともと法人税においては、和解により現物返還をすること及び具体的に価額弁償金を支払うことが確定した日(平成三年二月一九日)の属する事業年度(平成三年三月期)において損金として処理すべきものなのであって(法人税法二二条三項、四項)、昭和五八年三月期に遡及して減額を求める筋合いのものではない。

国税通則法二三条二項(後発的事由に基づく更正の請求)の規定は、申告時には予知しなかった事態その他やむを得ない事由がその後において生じたことにより、遡って税額の減額等をなすべきこととなった場合に、これを税務官庁の一方的な更正の処分に委ねることなく、納税者の側からもその更正を請求し得ることとして、納税者の権利救済のみちを更に拡充したものであることから、法人税における本件のような事例においても適用されるかのように解されないわけではない。

しかし、事業所得に係る所得税や法人税にあっては、同条項は、後発的な事由の大部分に適用されないのである。なぜならば、収益と費用とが期間的に対応することとされているこれらの税にあっては、例えば、売買が取り消されて戻り品があったときは、それが前期以前の売上に係るものであっても当期の借方に記入されるか、又は戻り品勘定によって処理される会計慣行があり、そのことを前提にして課税標準が算出され、本項の後発的事由に係る更正の請求制度によって、このような慣行までも変更しようとするものではないからである。最高裁判所昭和六二年七月一〇日第二小法廷判決(税務訴訟資料一五九号六五頁)もまた、「法人の所得の計算については、当期において生じた損失は、その発生事由を問わず、当期に生じた益金と対応させて当期において経理処理をすべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、その事業年度に遡って損金としての処理はしないというのが、一般的な会計の処理であるということができるから、後の事業年度において売買契約が解除されたことを理由とする国税通則法二三条二項に基づく更正の請求は同条一項所定の税額の過大等の実体的要件を欠くものである。」とした原審の判断は正当として是認することができるとしている。

四  争点

1  控訴人会社につき、本件事業年度の受贈益の有無

2  控訴人らにつき、「偽りその他不正の行為」の有無

3  控訴人らにつき、「隠ぺい、仮装行為」の有無

第三争点に対する判断

一  本件遺言を巡る経緯

1  前記争いのない事実等、証拠(第一号事件における甲二、三の1、2、四ないし一四、一五の1、2、一六ないし二六(一九ないし二三については、後記認定に反する部分を除く。)、乙一、二、三の1、2、四ないし一四(一一については、後記認定に反する部分を除く。)、一五及び一六の各1ないし6、一七、二一ないし二四、証人大城宏子、第二号事件における甲二、三の1ないし6、四及び五の各1ないし6、六、七、八の1ないし6、一〇ないし一五、一六の1ないし21、一七ないし二三、二四の1、2、二五、二六ないし三六(二六、三一及び三三については、後記認定に反する部分を除く。)、乙一、二、三の1、2、四、五、六の1、2、七ないし九、証人大城宏子、同田村千恵子(後記認定に反する部分を除く。)、同田本信勇(後記認定に反する部分を除く。)及び同高良盛勝、控訴人会社代表者(後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

(一) 亡盛一は、昭和五六年四月一七日、本件遺言書により、本件各土地を控訴人会社に遺贈する旨の意思表示(本件遺贈)をしたほか、<1>控訴人高良に一筆の土地(なお、その後に分筆されて二筆となっている。)及び控訴人会社の持分を相続させ、<2>盛隆外七名のうち男子五名に五筆の土地を各五分の一ずつの共有持分で相続させ、<3>盛隆外七名のうち女子三名に三筆の土地を各三分の一ずつの共有持分で相続させる旨の意思表示(以下、<1>ないし<3>の意思表示を「本件相続指定」という。)をしたうえ、弁護士大城宏子を遺言執行者に指定した。

そして、亡盛一は、昭和五七年七月六日に死亡したため、遺言執行者である弁護士大城宏子は、同年九月二七日、控訴人高良及び盛隆外七名の相続人全員に対し本件遺言書を公開した。これに対し、控訴人高良は、本件遺言書について異論を挾まなかったが、他の相続人らは、本件遺贈が盛隆外七名の遺留分を侵害しているほか、亡盛一の遺言能力についても疑義があるとして、これを争う姿勢を示した。

(二) 一方で、控訴人高良及び盛隆外七名は、亡盛一の相続税の申告等の手続を田村千恵子税理士(以下「田村税理士」という。)及び田本信勇税理士(以下「田本税理士」という。)に委任した。田村税理士は、本件各土地等の評価作業をしながら、控訴人高良及び他の相続人らと本件遺言書の内容等について説明をするなどしたが、相続人間で、遺産の処理についての話し合いはまとまらなかった。

そして、その間の昭和五七年一一月一一日、控訴人高良は、亡盛一の相続人の代表として、亡盛一に係る昭和五七年分の所得税につき、本件遺言により本件各土地が控訴人会社に遺贈されたことに基づき発生するみなし譲渡所得の金額を計上することなく、別表1のとおり、本件所得税準確定申告をした。

(三) 田本税理士は、同年末ころ、相続人全員を集めて亡盛一の死亡に伴う課税について、本件各土地の評価等に基づいた計算書を配布したうえ、その説明をした。その際、田本税理士は、本件遺贈をそのまま控訴人会社が受けた場合、相続人全員に亡盛一のみなし譲渡所得について所得税がかかり、控訴人会社には受贈益による法人税がかかるため、二重の課税となり、相続人全員で本件各土地を相続した場合と比較すると、三億円以上税額が高くなる旨説明するとともに、相続税であれば一五年間の分割延納ができることから、本件各土地を最終的に会社に帰属させるための方法としては、控訴人会社が本件遺贈を放棄したうえ、相続人全員が本件各土地を相続し、これを控訴人会社に売却して、その代金で相続税を支払うのが妥当であると助言した。

そのころ、控訴人会社ないし控訴人高良は、節税のために本件各土地をいったん控訴人高良及び盛隆外七名で相続登記したとしても、それを直ちに控訴人会社が買い取ることにより、最終的には遺言どおり、控訴人会社がこれを取得することを希望し、本件遺贈を放棄する旨の意思表示はしておらず、また、それまでの間に、相続人間で遺産分割の協議も整っていなかったが、相続税の申告期限が間近に迫っていたため、控訴人高良及び盛隆外七名は、遺産の処理については今後相談することとして、さしあたっては税金が低額となるように、本件各土地を未分割の相続財産として申告することとした。

そして、控訴人高良及び盛隆外七名は、昭和五八年一月五日、本件相続指定に係る財産については、その指定されたとおり各自が相続し、本件各土地については未分割の相続財産であるなどと記載した財産の明細書を添付して、亡盛一の死亡に伴う相続税の申告書(相続税の総額が六億一八六八万一六〇〇円、そのうち控訴人高良分が一億四七八七万一三一七円、盛隆外七名のうち男子五名分がそれぞれ六二九三万六〇七九円、女子三名分がそれぞれ五二〇四万三二九六円)を被控訴人に提出し、その一部を現金で納付するとともに、その余(控訴人高良分が一億三六〇〇万円、盛隆外七名のうち男子五名分がそれぞれ五八〇〇万円、女子三名分がそれぞれ四七〇〇万円)については、一五年の分納(一年あたり、控訴人高良につき、約九四〇万円(第一回から第一〇回)ないし約八四〇万円(第一一回ないし第一五回)、盛隆外七名のうち男子五名につき、それぞれ約三九〇万円(第一回ないし第一五回)、女子三名につき、それぞれ約三一〇万円、納付日・毎年一月六日ないし七日)とする相続延納申請書を被控訴人に提出した。

(四) 控訴人高良は、同月二五日、本件相続指定において自己が相続するとされた土地につき、遺言の執行を受けて、相続登記をした。

盛隆外七名も、同年四月二六日、本件相続指定においてそれぞれが相続するとされた土地につき、遺言の執行を受けて、相続登記をした。

(五) その後、控訴人会社(代表者・控訴人高良)は、同年五月三一日、本件各土地が控訴人会社に遺贈されたことやその受贈益については確定申告書に全く記載せず、添付した決算報告書にもこれに関する記載をしないまま、その受贈益を法人の所得に加算することなく、別表2のとおり、本件事業年度についての本件法人税確定申告をした。

(六) 控訴人会社、控訴人高良及び盛隆外七名は、そのころまでの間に、亡盛一の遺産処理に関する合意には至っていなかったものの、次年度以降の相続税(分納分)を支払うため、本件一土地については、控訴人会社が遺贈を放棄したうえ、相続人全員でこれを相続し、直ちに控訴人会社にこれを売却し、その売却代金で相続税を支払うこととした。

そこで、控訴人会社は、同日、「本件一土地のみの遺贈を受遺しないことにしましたので証明します。」と記載した証明書を作成し、盛隆外七名に対し、本件一土地に関する本件遺贈を放棄する旨の意思表示をしたうえ、同年六月一日、控訴人高良及び盛隆外七名からこれを代金一億九八〇〇万円(各相続人の取得分二二〇〇万円)で買い受けた。

右土地については、同月一三日、相続を原因とする控訴人高良及び盛隆外七名を共有者とする所有権移転登記がされ、同日、同月一日売買を原因とする控訴人会社に対する所有権移転登記がされた。

なお、右売買代金については、控訴人会社が本件一土地を第三者に転売し、あるいは同土地を担保として金員を借り受け、その転売代金ないし借入金をもって、控訴人高良及び盛隆外七名の相続税を支払うことにより、決済する予定であり、盛隆外七名は、そのころ、今後の相続税の支払い手続等を、控訴人高良ないし田村税理士に委託した。ちなみに、各自の取り分二二〇〇万円を各自の相続税に充当すると、盛隆外七名については、昭和六〇年度分(昭和六一年一月六日期限)までの本税及び利子税の全額並びに昭和六一年度分の一部に充当される計算となる。

(七) 控訴人会社は、昭和五八年七月一一日、大蔵省に対し、控訴人高良及び盛隆外七名のそれぞれの相続税及び利子税の支払いを担保するため、本件一土地に対し、抵当権(九件)を設定し、同月二三日、その旨の抵当権設定登記を経由した。

(八) 他方、盛隆外七名は、同年九月二〇日、控訴人高良及び控訴人会社に対し、本件遺贈によって盛隆外七名の遺留分が侵害されているとして、本件遺留分減殺請求の意思表示をした。

(九) 控訴人高良ないし控訴人会社は、前述のとおり、本件一土地を第三者に転売し、あるいは同土地を担保として金員を借り受け、その転売代金ないし借入金をもって、控訴人高良及び盛隆外七名の相続税を支払う予定であったが、右のとおり、大蔵省に対する抵当権が設定されたために、金融機関から借入れができず、また、転売先を探すこともできなかったことから、昭和五八年度分(昭和五九年一月六日期限)の相続税を期限どおりに支払うことができなかった。

そのために、盛隆外七名は、被控訴人から相続税の支払いを求められるなどしたことから、盛隆を除く七名は、昭和五九年三月五日、控訴人会社に対し、本件一土地の売買代金をもって相続税に充当すべく準備していたが、その支払いがないなどとして、右売買代金を七日以内に支払うように催告するとともに、右支払いがされないときには右売買契約を解除する旨の意思表示をした。

これに対し、控訴人会社(代表者・控訴人高良)は、同月一二日、本件一土地は相続税支払いのための担保に提供されていて、金融機関からの借入れができないうえ、控訴人会社が他の土地を所有することを確認できない状況では、相続税への充当をすることは困難である旨回答した。

(一〇) そこで、盛隆外七名のうち盛隆を除く七名は、同月一五日、控訴人高良及び控訴人会社を相手方とする家事調停の申立て(那覇家庭裁判所昭和五九年(家イ)第一二五号)をして、本件各土地ほかの亡盛一の財産について、右七名が本件遺留分減殺によって、共有持分を有することの確認を求めた。そして、右七名は、同月二九日、本件各土地ほかの亡盛一の財産について、控訴人高良及び盛隆を相手方とする遺産分割調停の申立て(那覇家庭裁判所昭和五九年(家イ)第一四三号)をした。

(一一) その後、控訴人高良は、同年四月二日、盛隆外七名に関する昭和五八年度分の延納相続税(本税等)の一部として、三〇〇〇万円を支払い、さらに、同年六月三〇日、その残額(延滞税を含む。)として、約二二九〇万円を支払った。

そして、その間の同月二六日、控訴人会社は、本件八ないし一三土地について、本件遺言の執行により、本件遺贈を原因とする所有権移転登記を受けた。

(一二) その後、控訴人会社は、同年八月七日、所有権移転登記を受けた右各土地(本件八ないし一三土地)のうち、本件一〇土地について、株式会社沖縄銀行に対する極度額五億円の根抵当権を設定した。

そして、控訴人高良は、昭和六〇年一月七日、控訴人高良及び盛隆外七名分の昭和五九年度分の延納相続税(本税及び利子税)の全額として、約六六七〇万円を支払った。

(一三) その後、盛隆外七名は、同年七月一三日、控訴人高良及び控訴人会社を被告とする土地共有持分確認等請求の訴えを提起し、本件遺留分減殺請求により、盛隆外七名が本件二ないし二一土地の共有持分を有することの確認を求めた。

(一四) 他方、控訴人高良は、昭和六一年二月二八日、盛隆外七名の昭和六〇年度分の延納相続税(本税及び利子税並びに延滞税)の全額として、約四九〇〇万円を支払い、さらに、昭和六二年一月五日、控訴人高良及び盛隆外七名分の昭和六一年度分の延納相続税(本税及び利子税)の一部として、約二五六〇万円を支払った。

なお、控訴人高良が、盛隆外七名分の延納相続税を支払ったのはこれが最後であり、昭和六一年度分の残額及び昭和六二年度分以降の延納相続税についてはその支払いをしていない。

(一五) 控訴人会社は、昭和六二年四月一三日、それまでに所有権移転登記を受けた前記各土地(本件八ないし一三土地)のうち、本件一一土地について、株式会社琉球銀行に対し、極度額五億円の根抵当権を設定した。

さらに、控訴人会社は、昭和六三年一月一三日、本件二ないし七土地について、本件遺言の執行により、本件遺贈を原因とする所有権移転登記を受けた。

(一六) 盛隆外七名は、同年六月二八日、前記共有持分確認等訴訟について訴えを変更し、主位的には、本件遺言の無効又は控訴人会社による本件遺贈の放棄を原因として、本件二ないし一三土地につき控訴人会社に対してなされた所有権移転登記の抹消登記手続等を請求し、予備的には、本件遺留分減殺に基づいて、盛隆外七名が本件二ないし二一土地の共有持分を有することの確認を求めた。なお、控訴人高良及び控訴人会社は、右訴訟において、控訴人会社は本件遺贈を放棄していない旨主張して、その立証活動を行っていた。

そして、盛隆外七名は、同年一一月二二日、本件一四ないし二一土地につき、昭和五七年七月六日相続を原因として、控訴人高良及び盛隆ほか七名に対する所有権移転登記(各九分の一の持分)を行ったうえ、平成元年四月一二日、盛隆外七名の持分につき、同月一〇日売買予約を原因として、琉球バス株式会社ほか二社に対し、持分移転請求権仮登記を経由した。

(一七) 被控訴人は、平成元年七月、控訴人会社に対し、本件法人税更正決定をしたうえ、同年一〇月二四日、控訴人会社名義の土地のうち、本件一ないし四、八ないし一三土地について、差押えを行った。

なお、控訴人会社は、前述のとおり、本件二ないし一三土地につき、本件遺贈により所有権移転登記を受け、そのうちの一部の土地については賃貸土地であることから賃料収入が発生しているにもかかわらず、本件事業年度から同年三月三一日までの各事業年度において、本件遺贈による受贈益はもちろん、右賃料収入についても、これを各年度の法人税として確定申告したことはなかった。また、控訴人会社は、昭和五九年末ころ、昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度につき、また、昭和六一年一一月ころ、昭和五九年四月一日から昭和六一年三月三一日までの二年度分の事業年度につき、それぞれ那覇税務署の税務調査を受けたが、その際、本件遺言書の存在については全く触れず、昭和六二年一二月一日になって、はじめてその事実を口頭で明らかにした。

(一八) 控訴人会社は、平成二年五月二四日、それまでに所有権移転登記を受けた土地(本件二ないし一三土地)のうち、本件二ないし四土地について、株式会社琉球銀行に対し、極度額五億円の根抵当権を設定しさらに同年八月二四日、右各土地(本件二ないし一三土地)のうち、本件一二、一三土地について、同銀行に対し、極度額三〇億円の根抵当権を設定した。

(一九) その後、前記共有持分確認等訴訟について、平成三年二月一九日、控訴人高良、控訴人会社及び盛隆外七名との間で、本件和解が成立した。本件和解の和解条項には、本件遺言が有効であることの確認(第一項)、本件一土地について、控訴人会社が遺贈を放棄し、控訴人高良及び盛隆外七名が相続により共有持分権を取得し、これを控訴人会社に売り渡したことの確認(第三項)、本件二ないし二一土地について、控訴人会社が本件遺贈を原因として所有権を取得したことの確認(第五項)、本件一四ないし二一土地について、本件遺留分減殺請求を原因として、盛隆外七名が各自八分の一の共有持分を取得したことの確認(第六項1)、本件一四ないし二一土地についての控訴人高良に対する持分九分の一の所有権移転登記を錯誤を原因として抹消し、盛隆外七名の共有持分を各八分の一と更正する登記手続に控訴人高良が協力すること(第六項2)、控訴人会社が、盛隆外七名に対し、遺留分減殺に代わる価額弁償として、合計一五億円の支払義務があることを認め、これを分割して支払うこと(第七項)等が記載された。

2  なお、控訴人らは、控訴人会社は、盛隆外七名が本件遺贈を争う姿勢を示し、確定申告日までに控訴人高良及び盛隆外七名の話し合いが合意に達しなかったので、本件遺贈を受けないで一応遺贈を放棄して、本件法人税確定申告をし、その後、本件遺贈をめぐって相続人間での紛争が長期化する中で、各相続人らの相続税の支払の財源を確保する必要があり、被控訴人からもその請求を受けていたので、やむなく昭和五九年六月二六日に本件八ないし一三土地について、昭和六三年一月一三日に本件二ないし七土地について、それぞれ遺贈を原因として所有権移転登記を行ったものであると主張し、控訴人高良及び証人田村千恵子はこれに沿う供述をする。

しかしながら、右1の各認定事実によれば、控訴人会社ないし控訴人高良は、節税のために本件各土地をいったん控訴人高良及び盛隆外七名で相続登記したとしても、それを直ちに控訴人会社が買い取り、最終的には遺言どおり、控訴人会社がこれを取得することを希望していたのであり、このことは、控訴人会社において本件一土地を買い取った後、他の相続人からその売買代金を支払うように請求された際も、控訴人会社が他の土地を所有することが確認できないことなどを理由として、これに応じなかったことからも明らかである。

そして、控訴人会社は、まず、昭和五九年六月二六日に本件八ないし一三土地について、遺贈を原因として所有権移転登記を行っているところ、これを担保にして借入れを行ったのは、そのうち本件一〇土地(同年)及び本件一一土地(昭和六二年)のみであり、かつ、その根抵当権の極度額はそれぞれ五億円であって(前認定)、その当時に支払うべき延納相続税の額をはるかに超過しているのみならず、その合計は相続税の総額をも超えるものである。さらに、控訴人会社は、昭和六三年一月一三日に本件二ないし七土地について、遺贈を原因として所有権移転登記を行っているが、控訴人高良ないし控訴人会社は、既にその時期には、盛隆外七名の延納相続税の支払いを止めているのであって(前認定)、これらの事情に照らせば、控訴人会社が本件二ないし一三土地について所有権移転登記を行ったのは、共同相続人の相続税支払いのための財源確保が主たる目的であったとは到底考えられず、控訴人会社が積極的に本件各土地の所有権を遺贈どおり取得しようとしたものに他ならないというべきである。

以上の諸事情に加え、控訴人及び控訴人高良は、前記共有持分確認等訴訟において、控訴人会社は本件遺贈を放棄していない旨主張して、その立証活動を行っていたこと(なお、前記の調停や訴訟の内容をみると、盛隆外七名も、当初は、控訴人会社が本件遺贈を放棄したとは考えていなかったことが窺える)、控訴人会社、控訴人高良及び盛隆外七名の間で、本件和解により、本件一四ないし二一土地については、本件遺留分減殺請求を原因として、盛隆外七名がこれを取得したことが確認されるとともに、控訴人会社が、盛隆外七名に対し、遺留分減殺に代わる価額弁償として、合計一五億円の支払義務があることを認め、これを分割して支払う旨の合意が成立したこと等前記認定事実を総合すれば、控訴人会社が本件各土地(本件一土地を除く。)の遺贈を放棄したことはなく、かえって、控訴人高良及び控訴人会社は、本件遺言書の内容を知った当初から、本件遺言どおり、控訴人会社において本件各土地を取得するという意思を一貫して有していたのであり、ただ、その方法として、節税のために本件各土地をいったん控訴人高良及び盛隆外七名が相続し、その後に控訴人会社が買い取るというのであればこれに応じるものの、そうでない限り、本件遺言どおり、控訴人会社が遺贈を受けるつもりであったものと推認することができる。

したがって、控訴人高良及び証人田村千恵子の供述は到底採用できない。

二  控訴人会社の本件事業年度における受贈益の有無(争点1)について

1  遺言は、遺言者の死亡のときからその効力を生じるのであるから(民法九八五条一項)、遺贈の効力は、受遺者の意思とは無関係に遺贈者の死亡によって当然にその効力が生じ、遺贈のなされた特定物の所有権は直接受遺者に移転すると解すべきであり、ただ、受遺者が、遺贈を放棄したときには、遺言者の死亡の時に遡ってその効果が生じることになる(民法九八六条)。

したがって、前記認定事実によれば、控訴人会社は、亡盛一が死亡した時点で、当然に本件各土地の所有権を取得したのであり、本件遺言により遺言執行者が指定され、本件各土地の所有権移転登記をきわめて容易に受けられ、また、これを第三者に処分すること等が可能となっているのであるから、本件事業年度にその受贈益が発生したことになると解すべきであって、たとえ、他の相続人が本件遺贈の効力を争っていたとしても、控訴人会社において、その主張を認めて本件遺言の無効を確認し、あるいは本件遺贈を放棄するなどしていない以上、本件事業年度にその受贈益を計上しなければならないというべきである。

そして、控訴人会社が、本件法人税確定申告のころまでに、本件一土地を除いては本件遺贈を放棄していないことは前述のとおりであり、したがって、控訴人会社には、本件事業年度に本件二ないし一一土地に係る受贈益が発生したものというべきである。

2  なお、控訴人会社は、受贈益とは、会計上、益金すなわち収益であり、収益とは物の引渡し、すなわち、当事者において事実上その支配内に物があることを意味するが、本件の場合には、遺贈を受けたとしても相続人から遺留分減殺請求がされることが確実であり、また、遺言書の有効性等も争われていた関係から、控訴人会社には、本件各土地につき、法律上も事実上も支配権を持っていなかったのであり、したがって、会計上の公正妥当な処理基準から判断すると、財産の帰属が確定していない場合であるから、受贈益を本件事業年度に計上すべきではないと考えるのが相当であると主張する。

しかしながら、例えば、たな卸資産の販売の場合には、同時履行の抗弁権の存在により、引渡しによってはじめて相手方に対して代金請求をなしうる状態となることから、収益の発生時期としては、代金請求権が確定する引渡時とすることに合理性が認められるが、遺贈の場合には、無償であって同時履行関係はなく、遺贈の効力が発生した時点で、受遺者において遺贈財産に対する法律上及び事実上の支配を得るといってよいのであるから(実際に、控訴人会社は、その後、他の相続人の意向とは無関係に、適宜、本件各土地の所有権移転登記を受け、これを担保に供するなどしている)、相続開始時において収益に計上すべきである。そして、相続人から遺留分減殺請求がなされうる状態であったとしても、当然にこれが行使されるわけではなく、後述のとおり、現実にこれが行使され、その具体的な内容が定まった時点において、その事業年度の損失として処理すべきであり、これにより受遺者に特段の不利益は生じないというべきであるから、これをもって、収益の計上を妨げる事情であるということはできない。

したがって、控訴人会社の前記主張は失当である。

3  さらに、控訴人会社は、仮に控訴人会社に本件二ないし二一土地に対する受贈益が認められるとしても、その後、控訴人会社は、盛隆外七名に対し、その遺留分減殺請求権に基づき、本件一四ないし二一土地を現物返還し、一五億円を価額弁償しているのであって、少なくとも現物返還の場合には、遺贈が遡及的に失効するのであるから、受贈益も減少することになると解すべきであると主張する。

しかしながら、法人は継続的な企業として永続するのが原則であるところ(継続企業の原則)、その損益計算は、その永続的経済活動を区切り、その期間ごとの損益を計算することになる。そして、企業会計上、各事業年度において、当期における収益と当期における費用、損失とを対応させて損益計算をし、当期において生じた損失は、その発生原因を問わず、当期において生じた収益と対応させて、当期に経理すべきであるから、その発生原因が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、原則として、その事業年度に遡って損金として処理しないのが相当である。

このことは、遺留分減殺請求の場合であっても同様であって、非日常的ないし非営利的行為であるからといって、その取り扱いを異にすべき事情があるということはできない。

そして、前記認定事実によれば、盛隆外七名が本件遺留分減殺請求をし、あるいは、その具体的な現物返還ないし価額弁償の合意がされたのは、本件事業年度を経過した後であるから、本件事業年度における本件二ないし二一土地の受贈益には何らの影響も及ぼさないというべきであり、したがって、前記の控訴人会社の主張は失当である。

三  控訴人らにつき、「偽りその他不正の行為」の有無(争点2)について

控訴人高良及び控訴人会社は、本件遺言書の内容を知った当初から、本件遺言どおり、控訴人会社において本件各土地を取得するという意思を一貫して有しており、ただ、その方法として、節税のために本件各土地をいったん控訴人高良及び盛隆外七名が相続し、その後に控訴人会社が買い取るというのであればこれに応じるものの、そうでない限り、本件遺言どおり、控訴人会社が遺贈を受けるつもりであったといえることは先に認定判断したとおりである。

そして、前記認定事実によれば、控訴人高良ないし控訴人会社は、控訴人会社が本件遺贈を放棄しなければ、控訴人会社において受贈益を計上し、亡盛一の所得においてみなし譲渡所得を申告しなければならず、控訴人会社が遺贈を放棄した場合と比較すると、相当額の税金を余分に負担しなければならないことを十分に認識していたにもかかわらず、右のとおりの意図を有しつつ、各申告時までに本件遺贈(本件一土地を除く。)を放棄しないまま、控訴人高良においては、本件各土地が未分割の相続財産であると記載した相続税の申告を行うとともに、被相続人の本件所得税準確定申告においてみなし譲渡所得を申告せず、控訴人会社においては、本件法人税確定申告において、本件遺贈の存在やこれによる受贈益を全く記載せず、添付した決算報告書にもこれに関する記載をしないで、右受贈益を申告しなかったものであって、いずれも、所得金額をことさら過少に申告した内容虚偽の申告行為であり、単なる所得計算の違算や忘失というものではなく、これらは、控訴人会社及び控訴人高良がそれぞれ正当な税額の納付を回避する意図に基づいてした過少申告行為と認めるのが相当である。

したがって、控訴人会社及び控訴人高良には、「偽りその他不正の行為」が認められ、本件法人税更正決定及び本件所得税更正決定はいずれも更正期間内に行われた適法なものということができる。

四  控訴人らにつき、「隠ぺい、仮装行為」の有無(争点3)について

以上のとおり、控訴人高良ないし控訴人会社は、控訴人会社が本件遺贈を放棄しなければ、控訴人会社において受贈益を計上し、亡盛一の所得においてみなし譲渡所得を申告しなければならず、控訴人会社が遺贈を放棄した場合と比較すると、相当額の税金を余分に負担しなければならないことを十分に認識していたにもかかわらず、右のとおりの意図を有しつつ、各申告時までに本件遺贈(本件一土地を除く。)を放棄しないまま、控訴人高良においては、本件各土地が未分割の相続財産であると記載した相続税の申告を行うとともに、被相続人の本件所得税準確定申告においてみなし譲渡所得を申告せず、控訴人会社においては、本件法人税確定申告において、本件遺贈の存在やこれによる受贈益を全く記載せず、添付した決算報告書にもこれに関する記載をしないで、右受贈益を申告しなかったものであるから、それぞれの法人税確定申告及び所得税準確定申告は、国税通則法六八条一項の重加算税の賦課要件を満たすということができる。

五  結論

以上によれば、本件法人税更正決定(本件法人税異議決定によって一部取り消された部分を除く。)及び本件所得税更正決定(本件所得税職権減額更正によって一部取り消された部分を除く。)はいずれも正当であり、その各取消しを求める控訴人らの本件各請求はいずれも理由がなく、これらを棄却した各原判決は正当である。

よって、控訴人らの各控訴はいずれも理由がないので、これらを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条、六七条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉村典晃 裁判長裁判官岩谷憲一、裁判官角隆博はいずれも転補のため、署名押印することができない。裁判官 吉村典晃)

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